先生がいてくれるなら②【完】

以下は、“あの時” の回想だ。


少し日付を遡る事になるが、どうか許して欲しい──。




それは大晦日の前日の事だった──。



立花とは、彼女の家の事情やら体調不良やらでクリスマス以降一度も会えていなかった。


体調が心配だけど……立花からは『大丈夫』というメッセージを送ってくるばかり。



それが、この日は朝から携帯に電話が掛かってきて……。



『先生、午後から少し付き合って欲しい所があるんです……』


明らかに元気の無い弱々しい声で、そう言う。


会ってみても実際顔色が悪くて、それなのに今から行く場所を尋ねると「……カラオケ」と答えた。



「……なんでカラオケ? お前、具合悪そうだぞ。どうしても歌うのか?」

「……はい、まぁ」


いやいや、どう考えたって歌なんか歌ってないで家で寝てる方が良いんじゃないのかって顔色だぞ!?


しかも呼び出された場所が、俺の家と立花の家の最寄りのちょうど中間の駅──。


ますます意味が分からん。



立花がどうしても歌いたいって言うなら仕方ないけど、「俺は絶対歌わないからな」と念を押すように言うと、立花は「分かってます」と頷いた。



顔色も悪いし、心なしか手も震えてる。


時々顔を少し眉根を寄せて、何かに耐えるような表情をする立花──。


これは絶対に大丈夫なんかじゃない。


俺は立花の背中をさすりながら「体調が悪いなら帰った方がいいんじゃないか?」と言ったが、立花は無言でゆるりと首を横に振った。


そして、俺の目をしっかりと捉え視線を絡ませたままで「とても大事なお話があります」と、ほんの少し掠れた声で言う。



大事な話……?


……カラオケの個室で?


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