竜使いの少女が恋したのは王子様でした【完】
キーラ、降り立つ
 気付けば、夏よりさらに短い秋も終わろうとしていた。エドヴァルドの冬は厳しく長い。私たちは、竜の冬籠りの準備に大童(おおわらわ)だ。

 まず、竜の餌となるエドヴァルド・スプルスの球果を大量に集めなくてはいけない。冬、雪に閉ざされてからでは、集めるのがとても難しいから。

 次に、春からずっと貯めておいた発酵させた寝藁を巣に戻し、発酵熱で巣の中を暖める。それは、とても重労働で、1年で1番きつい仕事でもある。

 私はそれでも懸命に竜のために働く。この子たちを無事越冬させるために。

 

 そんなある日の午後、遠くに竜の影が見えた。他の竜使いが飛ばしているんだろうと、特に気にも止めなかったけれど、近づくにつれて翡翠色に輝く姿を目に留めて、一瞬で固まった。

「キーラ!?」

 ここに降りようとしているのか、その竜は旋回を始めた。そのままゆっくりと高度を下げ、迫ってくる。

 その背に乗っているのは……

「アウ……リス……」

暖かそうで艶やかな毛皮に身を包んでいる青年は、遠目ではっきりとは見えないが、アウリスに見える。

 バサッ、バサッ、バサッ、とブレーキをかけるように翼を広げた竜が地上に降り立った。

やっぱりキーラだ!

縄梯子を下ろして降りてくるのは……

「アウリス!!」

私は、思わず駆け出した。

「レイナ!!」

アウリスも駆け寄って抱きしめてくれる。

そのまま言葉もなく、互いの温もりを感じていると、反対側から声が聞こえた。

「キーラ?」

キーラの陰になって見えないが、父の声だ。

私は、ふと我に返って慌ててアウリスから離れる。

「キーラ!
 お前、まさか城から逃げ出してきたのか⁉︎」

駆け寄る足音と共に、父が姿を現した。

「あ、アウリス王子!
 ご無沙汰致しております。王子には、ご機嫌麗しく存じ、お喜び申し上げます」

アウリスを認めた父が、直立して挨拶をする。

「エルノも元気そうで何よりだ。
 突然のことで申し訳ないが、今、少しだけ時間を取れるだろうか?」

何?

私は首を傾げて、アウリスを見上げた。

「はい、それは、もちろん」

父は、アウリスをうちへと案内する。

私は、アウリスから半歩遅れて歩きながら、アウリスの横顔をこっそりと覗き見る。

二度と会えないと思ってたアウリス。

何をしに来たんだろう?

キーラのこと……じゃないよね?
それなら、キーラがいるあの場で何か言っててもおかしくない。
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