竜使いの少女が恋したのは王子様でした【完】
大聖堂にて
 それから、半年後、私は、再び父やアウリスと共に王城を訪れた。

 身支度のための一室を与えられ、メイクを施される。シャンパンゴールドの刺繍をあしらった純白のドレスは、室内のシャンデリアの明かりを受けてキラキラと煌く。

 コンコンコン

「レイナ様、お支度は整いましたでしょうか?」

ノックと共に、ドアの向こうから声が掛かる。

「はい、大丈夫でございます」

給仕をしてくれている女性の1人が、ドアを開けて応対する。

「間もなくお時刻でございます。
 ご案内致しますので、どうぞこちらへ」

私は、椅子から立ち上がると、その女性の後に続いた。


 今日は、私とアウリスの結婚式。廃太子となったこともあり、内内(うちうち)だけの式を城内の大聖堂で行うらしい。

 エドヴァルド城内の大聖堂は、鈍くくすんだ青いドーム屋根の塔が3本並ぶ白く美しい教会だ。私は、案内に従って、長いドレスの裾を踏まないよう、爪先で蹴りながら石畳を歩く。私の後ろには、女性が1人付いて、長いトレーンを持ってくださっている。


 私の手には、すずらんのブーケ。

 ドライフラワーになったあの指輪は、もうできないけれど、思い出のすずらんに彩られて、私は今日、アウリスと永遠の愛を誓う。


 ようやく訪れた春の明るい太陽の下、私は大聖堂の外で待つ父の隣に立った。

「お父さん、今まで育ててくれてありがとう。
 私、お父さんの子で良かった」

私は、父の腕に手を添えて、扉を見つめたままそう告げた。

「俺も、レイナの父親になれて良かったよ。
 俺と母さんの子に生まれてきてくれて、ありがとうな」

父のその言葉を聞いて、思わず涙が溢れそうになる。

ダメ! せっかく綺麗にお化粧してもらったのに。

私は涙が溢れないよう、そっと上を向いた。



 ほどなく、賛美歌と共に大きくて重そうな扉が開き、私は父と一緒に一歩踏み出す。一歩、また一歩。ゆっくりと祭壇前のアウリスに向かって。

 私は、父のもとを離れ、アウリスの手を取った。アウリスは優しく微笑んで囁く。

「レイナ、綺麗だ」

アウリスから、そんな風に言われたのは初めてで、私は照れ臭くて、俯いてしまった。
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