身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「菖悟さんってもしかしてB専なのでしょうか?」

何もかもが揃っている人でも、どこかに欠点はある。菖悟さんの場合、それが美的感覚のずれなのだろうか。

真剣に訊いたのに、菖悟さんは呆気に取られた顔をした。

「ばかなことを言ってないで、早く風呂に入ってこい」

頭をぽんと叩かれ、私はバスルームに追いやられた。別に自虐でもなんでもなく、事実を述べただけなのに、憐れまれてしまったのかもしれない。

私もシャワーを浴びると、部屋でふたり、朝ごはんを済ませた。

それぞれの職場はここから反対方向なので、私はいつも通り山岡さんの運転で職場に向かうことになる。

山岡さんはすでに到着してくれているらしいが、私はまずホテルのエントランスで菖悟さんを見送った。

「それでは菖悟さん、いってらっしゃいませ」

「ああ。また夜に」

さわやかな菖悟さんの笑顔に、私も自然と顔がほころぶ。

「はい、夜に」

夜にはまた同じ家に帰るということがなんだかこそばゆかった。けれどそれ以上に、彼との生活に馴染んでいる自分に気づく。

私は幸せになれるのかな? 幸せになってもいいのかな?

空に向かって、私は胸の内で問いかけた。
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