オオカミ社長の求愛から逃げられません!

あんな気持ちになったのは、初めてだったと思う。

八神家の看板を生まれながらに背負う俺は、人の目を気にして生きてきた。名に恥じぬように、失敗しないようにと。だからこんなわがままを通したのは初めてだったと思う。

里香を親父の前に連れて行ったときは激怒されたが、説得すればなんとかなるだろう。話が通らない人ではない。現に、親父も俺と同じ道を歩いてきているのだから、俺の気持ちは嫌というほどわかるはずだ。


コンコン——

里香の家に行った翌日。オフィスで仕事をする俺の耳に、ドアを叩く音が届いた。その音を聞いた瞬間、心が躍るような気持ちになった。

時刻は12時半。予定通り来たな。

「どうぞ、入って」

そう言えば、ゆっくりとドアが開く。そして少しの間のあと、オロオロする里香の顔が現れた。

< 42 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop