ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

おずおずと顔を上げると、整った顔が思いのほか近くにあった。

わたしの鼓動がいっそう激しくなる。


「ちゅーして」


おーちゃんの瞳が揺れた。


「っ、おい……」

「だめ?」


甘えるようにねだると、おーちゃんは一瞬、固まってしまった。

そして、くしゃりと前髪を乱して——、


「……ませガキめ」


吐き出すようにこぼされた言葉と一緒におーちゃんの顔が近づいた。

唇が、そっと触れ合う。

柔らかくて優しくて、甘い熱を帯びたその感触は、こっそり自分から重ねたときとは比べ物にならないくらい、心地よかった。
< 69 / 405 >

この作品をシェア

pagetop