ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「——連絡がないまま、お前が帰ってこなくてさ」
ぽつり、とおーちゃんが静かに口を開く。
低い落ち着いた声が、わたしの耳元で響いた。
「心配したし、焦った」
「……ごめんなさい……」
「杉本さんの話を思い出して、もしかしたらって思って……駅についたら、変なのに連れてかれそうになってるし」
「……」
「心臓止まるかと思った」
ドク、ドク、と耳の後ろで、強く脈が打っている。
「ごめんなさい。……もう、こんなことしない」
「ん。ほんと、頼むよ」
「ご飯も、ひとりで食べさせちゃって……」
おーちゃんに言われたことを真似すると、くす、と小さな笑いが返ってきた。
「やっぱひとりで食べるのは、寂しいな」
「うん」