ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

花びらがすっかり散り落ちて、桜並木が残骸のようになってしまったころ。

学校の授業も本格的に始まってしばらく経ち、わたしたちは体育祭に向けて、50m走のタイムを計測していた。


「ね、汐里!」


わたしたちが地面に腰を下ろすとほとんど同時に、汐里ちゃんと仲良しの隣のクラスの女の子たちが、飛びつくような勢いで寄ってきた。

内緒話をするような声のトーンだったけれど、はしゃぐような口調で告げられた内容は、近くにいるわたしには丸聞こえだった。


「結局どうなったの、(にしき)くんと」

「あー……」


汐里ちゃんは眉をハの字にして笑顔を作った。


「返事さあ、待たされてるんだよね。まだ彼女と別れられてないって……」

「え、まじ?」

「えー……、でもさ、この間、誘われてたよね?」

「そう。誘われたし、……そのとき、普通に手、繋いできたし」

「えー! それってもしかしてさ、二股ってこと?」

「やっぱそうなのかなあ」

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