転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「はる、」


 名前を呼びかけた唇が、彼のもので塞がれた。噛みつくようなそのキスは、簡単に結乃の身体から力を奪ってしまう。


「っん、んぅ」


 くぐもった声を漏らしながら、掴まれていない左手を抗議のため目の前の胸板に添えた。

 その服を握り込みたいのに、指先に思うような力が入らない。腰に回された手が、ぎゅう、とこれでもかというくらい、ふたりの身体を密着させる。

 ぬるついた熱い舌が怖気付く結乃の舌を絡みとって吸い上げて、また甘い吐息がこぼれた。ショルダーバッグの細い紐が肩から落ち、かろうじて腕に引っかかる。

 容赦なく口内を嬲る舌に翻弄され、頭がぼうっとしてきた。
 狭い密室に、エレベーターの上昇音、結乃の鼻を抜ける甘ったるい声、互いの唾液を交換する淫靡な水音が響く。

 そのとき、エレベーターが停止した。
 どうやら春人も気づいたらしい。小さなリップ音とともに一旦唇が解放され、少し乱暴な指先が結乃の口の端を汚す唾液を拭った。

 乱れた呼吸を整える間もない。腰と腕に回った彼の手が、結乃の身体をエレベーターの外へと連れ出す。


「っあ、の、春人さん……っ!?」


 逃がすまいとするように、結乃を伴って歩く春人の両手には力が込められていた。

 もつれそうになる足を必死で動かしながら、すぐそばにある男の顔を見上げて名前を呼ぶ。

 春人はただひたすら前を向きながら、彼女の声に応えることもせず苦しげに顔を歪めていた。その切羽詰まった、けれども壮絶な色気を孕んだ表情に、結乃は知らずうちコクリと喉を鳴らす。
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