転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「あ、清水(しみず)先生……どうしてわかったんですか?」
「そりゃもう、そんなふうにスマホ抱きしめてたら。表情もくるくる変わるし」


 ニッコリ笑顔で言われ、結乃はますます羞恥に頬を染める。
 まさか、傍から見事に図星を指されてしまうとは……己の失態に、穴があったら入りたい気分だ。


「今日は早く帰るよ〜、ですか?」
「いえ……逆です、今日は飲みに行くみたいで。珍しいのでびっくりしてたんですよ」


 恥ずかしさを誤魔化すためか、勝手に口が動いてそんな返答をしていた。

 すると清水が「え!」と予想以上に驚いたような声を上げ、さっきまでより前のめりになる。


「なら黒須先生も、今日このあとどうですか? いい店知ってるんです」
「えっ?」
「あ、違います、もともと仕事終わりに何人かの先生方と約束してて! もちろん女性もいますよ」


 周りを気にしてか小さめの声音ではあるが、心なしか早口になった清水にまくし立てられ、結乃は若干気圧され気味だ。

 とはいえ、同僚からの思わぬ誘いに思案する。


(まあ……どうせこのまま家に帰っても、ひとりだし……)


 最後に参加した飲み会といえば、4月の初めにあった職場の歓送迎会だ。春人には勧めておきながら、自分も大概ヒトのことは言えない。

 どうせ明日は土曜日。懸案事項は他にないし、せっかくの機会だ。


「ありがとうございます。お言葉に甘えて、混ぜてもらっちゃっていいですか?」


 微笑みとともにそう答えれば、それまで少しこわばった表情で結乃の答えを待っていた清水はパッと顔を明るくした。


「もちろんです! あ、一旦家に帰ったりしなくて大丈夫ですか? 特に用事がなければ、直行できるメンツは駐車場に集合してまとまって行くことになってるんですけど」
「そうなんですね。では、私もそうします」
「了解です。それじゃあ、また後で!」


 清水が満面の笑みで大きくうなずき、ここから少し離れた自分の席へと戻っていく。

 見るからに上機嫌そうな様子に『よっぽど飲み会が楽しみなんだなあ』と微笑ましく思いつつ、結乃は春人宛に追加のメッセージを送ってから帰り支度を再開した。
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