転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
番外編①:黒須副社長の微笑み(音声のみ)事変


 納期が近いプロジェクトで、何やら問題が発生したらしい。休日だというのに、春人は2時間ほど前から自室にこもっている。

 多忙な夫が自宅で仕事に追われている姿は、すでに慣れっこだ。リビングのソファーでひとり読書に耽っていた結乃は、ふと見上げた先の時計が15時を示しているの確認した。


「……コーヒー、淹れようかな」


 差し入れくらいなら仕事の邪魔にはならないだろう。思いたって、小説を脇に置きソファーを立つ。

 ついでに常にストックしてある自分のお気に入りのメーカーのチョコチップクッキーもマグカップとともにトレーに載せ、春人の自室のドアをノックした。


「……?」


 おかしい。いつもはすぐに返ってくるはずの返事が、数秒待ってもない。
 まさか眠ってしまっているのだろうかと、ドアノブを回してそうっと押しながら中をうかがう。

 そして結乃は、すぐに自分の行動を後悔した。


(しまった、通話中だったんだ!)


 ドアが開く気配に気づいたらしい。正面にあるデスクで作業をしていた春人が僅かに椅子を回転させてこちらに視線を向けたのだが、その口もとは何事か話していたし、頭にヘッドセットがつけられていた。

 ちらりと見てしまったパソコンのディスプレイにはよくわからない文字列しか映っていなかったから、普通に一対一の電話か、もしくは通話オンリーのウェブ会議中だったのだろうか。

 とにもかくにも、早く退散しなければ。ああでも、音をたてなければ差し入れを渡してしまっても大丈夫だろうか?
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