転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
番外編②:知らぬは本人たちばかり


 近衛騎士は、王宮騎士団に属する数多の人間の中でも特に優秀な者を選出して構成された少数精鋭部隊である。
 通常彼らが一般的な騎士団員たちと業務をともにすることはほとんどないが、月に二度ほど合同訓練があり、そのときばかりは双方の立場や年齢も関係なく剣を合わせ、技術を競い高め合う。

 この日、王宮内の騎士団演習場において半月ぶりの合同訓練が行われていた。
 今日の訓練内容は至ってシンプル。近衛騎士・一般騎士が入り交じり、次から次へ休むことなく1対1の試合を行っていく模擬戦闘訓練だ。

 誰かひとりの優勝者を決めるのが目的ではないため、勝っても負けてもまた次の対戦がある。人数は多いが広い演習場を4つの区画に分けて同時に試合を行うおかげで相当な試合数をこなせるので、あまり時間を置かず自分の出番が回ってくるなかなかにキツい訓練だ。

 若い一般騎士同士がぶつかり合った最後の試合の決着がついたところでちょうど昼の鐘の音が響き、訓練は終了となった。
 訓練中は軽装防具を身につけているが、今やほとんどの者が暑さのために団服の上着、さらにはインナーまでを脱いで半裸となり、賑やかに談笑しながら各々水汲み場や食堂、または詰め所へと分かれていく。

 近衛騎士団の若手有望株、ハルトヴィン・ラノワールも例に漏れず、解散後はまっすぐ演習場片隅にある水汲み場に向かい喉を潤していた。
 とはいえ彼はキッチリと上着を身につけたままなので、周囲にいる者たちは若干奇異の目でチラチラと遠巻きに彼のことを見ている。

 しかしそんな眼差しをものともせず、というか気づいてもいない彼は水をすくった柄杓から顔を上げると、持っていた布で顎をつたう雫を無表情に拭った。


(……おかしいな)


 ふ、と軽く息を吐き出しながら、考える。

 なんだか、今日はいつもより調子が出ない。対戦相手を全員負かしはしたが、特に最後の対戦は相手の力量のわりに時間がかかりすぎた。

 とはいえ、相手に膝をつかせてその喉もとに剣先を突きつけるまではたった1分程度しか経っておらず、周りで見ていた一般騎士には充分畏怖と尊敬の眼差しを向けられていたのだが──基本的にマイペースで他人に興味のないハルトにとっては自分の主観がすべてなため、周囲の評価はあまり意味がない。
< 191 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop