転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 春人は内心で悪友のセリフにムッとしたものの、一度は口から出かかった文句を飲み込み、代わりにため息を吐くだけに留める。

 表面上は普段通りの無表情だ。そのため付き合いの長い仁のようにパッと見で判断するのは至難の業だったが、今の彼は実際、とある理由で上機嫌に浮かれていた。失礼極まりない仁の発言を無言で流せるくらいに。

 外見も中身もまったく似ていない春人と仁は、それでもこうして10年以上、友人兼ビジネスパートナーとしてなんだかんだと上手くやってきた。

 雄々しいライオンに似た雰囲気で豪快かつ大胆に社を牽引する仁と、しなやかな黒豹を思わせる冷静でクレバーな春人。タイプは違えど、この凸凹ツートップはともにユーアソシエイト社員たちから敬愛の眼差しを向けられている。


「そういえば、開発室から上がってきた新しいRPGの企画書もう見てる? めちゃくちゃ面白そうだぞ」
「まだ見てない」
「あ、今日って夜は会食だったか……ラーメンの気分だったのに……」
「昼に食べればいいんじゃないか」


 ともに過ごした時間が長ければ、会話も気安い。ふたりのやり取りは、いつもこんな感じである。

 仁の会話量を10とするならば、対する春人はせいぜい4か3といったところ。春人の言葉数の少なさにはすっかり慣れたものなので、仁は自分のひざに載せたタブレットから目を離さないまま左手でクルクルとペンをもてあそびつつ、マイペースに続ける。
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