昨日、失恋した
昨日、失恋した
中学までは、ぼっちだった。

 高校生になって、電車通学を始めたら友達も少しだけ出来た。混んだ電車は苦手なので、朝早く学校に行く。朝早い学校は、シーンと静まり返っていて心が落ち着くから好きだ。

 でも、一番好きなのは……こんな朝早い時間にもかかわらず、私と同じように登校してくるクラスメートの彼と、昇降口で挨拶する事だ。

 昇降口で、朝の挨拶をする。
 ただそれだけだ。

 教室に向かう廊下でも、二人で並んで歩いているのに、お互いに一言も喋らない。朝早い教室に二人だけで入って、お互いに自分の席に座るだけだ。

 私は、その後カバンから小説を取り出してホームルームが始まるまで読んでいる。時々は、その日の宿題をやる事もあるけれど、朝はユックリと小説を読んでいたい気分だ。

 彼は、机に突っ伏して朝のホームルームが始まるまで眠っている。眠っているフリをしているのかしら? と思って、たった一度だけソッと近づいてみた事がある。自分の腕を枕にして、少し空いた口もとからは彼の小さな寝息が聞こえてきた。
 寝息を少し聞いた後で、彼を起こさないように、ソーッと自分の席に戻って、小説の続きを読んだ。

 その後、クラスメートが少しずつ集まってくる。私の友達が入ってきたら挨拶を交わす。ホームルームが始まり、いつも通りの授業が始まる。

 休憩時間やお昼休みでは、彼は男の子のグループと雑談を交わしているし、私も女の子のグループで会話をしているから、お互いに近づく事もない。
 理科の実験や特別授業では、特別教室で偶然となりの席や同じ実験グループになることもある。その時も、彼は私にはあまり話しかけて来ない。

 だけど、今のこんな日々がいつまでも続くといいなあ、と思っていた。

 早朝の昇降口の挨拶とそれに連なる二人だけの時間が、私の今のささやかな幸せなのだから。

 しかし、その幸せな時間は長くは続かなかった。
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