ハッピーエンダー

水樹さんとならセックスできる、というのは今も変わらないし、彼と今以上に触れ合いたいという欲もある。でもそれは、私たちの秘密の関係が薄汚れたチープなものに変わっていくということだ。そんなことは、ほかのどうようもない男と済ませられる。だから昨日はショックだった。

午前九時。

「じゃ、行ってくる」

「はい。いってらっしゃい」

ゆっくりとトーストの朝食を食べた後、水樹さんはスーツに着替えて出ていった。ホテルに顔を出して支配人と雑談して、役員会議があれば本社に寄って帰ってくるだけの勤務。水樹さんいわく「やってることは父親と同じ」なのだそう。 残された私は、彼が帰ってくるのをただ待つだけ。

朝食の食器を片付け、水回りを掃除した。それでやっと、時刻は午前十時。

リビングの中心に立ってぼんやりとしていたとき、「ピンポン」と聞いたことのないチャイムが鳴った。

……水樹さんじゃない。誰?
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