ハッピーエンダー

それはまだ私にすがる涙だと気づいて戸惑い、一歩後退りをしたが、彼は私を手繰り寄せてもう一度ベッドに組み敷いた。今度は優しく手を握り、ふわりと髪を垂らして私を見つめていて、ポロポロと彼の少年のような涙が落ちてくる。

「水樹さん……?」

「この五年。俺がどんな気持ちだったかわからないのか。こんな生活を、幸せだなんて言わないでくれ」

切なくなるような涙声に胸が苦しくなり、私もこらえきれずに涙があふれた。

「……みず、き、さん……」

「気づいてないのは光莉の方だ。光莉は奪わないと生きていけないって言うけど、逆だよ。いつも奪われてる。なんでそんな簡単なことに気づかないんだ。バカ」

涙だらけの彼は目を閉じ、私に優しくキスを落とした。五年前と同じ、凍えた私の心を慰めてくれるキスだった。

私たちはセックスせずに抱き合い、キスを繰り返しながら、朝まで眠った。
< 145 / 161 >

この作品をシェア

pagetop