ハッピーエンダー

「光莉はどう思う? 決めな。兄ちゃんの世話になり続けるのか、俺のところに逃げてくるのか」

催眠術をかけているような彼の瞳が、私の目を捉えて離さない。すべて彼の思うつぼになっている。私が出す答えがわかっている。

「……水樹さん」

涙がポタポタと溢れだした。私は兄が結婚して、この家を追い出されるのが本当は怖くてたまらなかった。ひとりが怖い。寂しさを紛らわす方法をまるで知らない。ダメだってわかっているのに、水樹さんは今回も最悪のタイミングで現れた。

彼に向かって一歩足を踏み出し、兄を振り返った。

「光莉!?」

「お兄ちゃん、今までありがとう。私、水樹さんのところに行く」

私が水樹さんの胸に身を委ねると、兄は悲鳴に近い声で私の名前を呼び続けた。

アパートから私を連れ去る水樹さんは、ひどく優しい声で「おいで」とささやき、私の頭を抱きしめた。
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