ハッピーエンダー

「水樹さん。風邪ひいちゃいますよ」

廊下の大理石の上で抱き合っていた私たちの足は、ひんやりと冷たい。彼は胸に顔を押し付けたままコクンとうなずくと、回している腕で私を持ち上げ、歩き出した。

私を黒い革のソファにきちんと座らせ、少し満たされたのか水樹さんはそばに立ったままネクタイを外す。

ネクタイだけではなく、ジャケットを脱ぎ、ワイシャツのボタンを上から三つ外した。ベルトを緩め、金具を外し、ほんの少しチャックも下ろす。私はソファの上で目を逸らして見ないふりをした。

だらしなく緩められた服装で、ベルトの金具をカチャンカチャンと鳴らしながら、彼は寝室と思わしき部屋へ消えていく。ほんの数秒で、黒いTシャツとスェットパンツ姿に変わり、髪を崩しながら戻ってきた。

あの頃と同じ姿にドキッとする。やっぱり水樹さん、全然変わってない。
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