ハッピーエンダー

「……水樹さん」

「わかってる。光莉は養われるの嫌いだもんな。ほら、養う方が好きじゃん、俺みたいなどうしようもない男を」

彼はクックック、と笑う。

「別に水樹さんを養ってたことなんてなかったじゃないですか。家賃もらってましたし」

反論すると、彼は仰向けになり、手を伸ばして私の髪に触れた。思わず体が硬直し、動けなくなる。

「懐かしいな……」

少し切ない顔でそんなことを言うもんだから、私も同じ顔になった。本当に、懐かしい。水樹さんとまたこうして会えるなんて。私はあの頃とはいろいろ変わってしまったけど。

しばらく見つめ合ったが、私が先に目を戻した。キョロキョロと部屋を見回すと、彼は「なに?」とつぶやいた。

リビングから見えるキッチンはこざっぱりしていた。タオルハンガーにタオルがかけられてすらいないのに、電子ケトルがコンセントに刺さっている。シンクに捨てられたカップ麺の空を見れば、彼の生活がどんなものか明らかだ。
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