ハッピーエンダー

折半じゃなくて二割でしょう、と私は笑った。
私は兄をずっと縛っていた。あの日からずっと。


◇ ◇ ◇


五年前。雨の日に、母が死んだ。過労による心不全だった。

幼い頃に父と別れ、私たちを女手ひとつで育ててくれた母。ふたりとも大学まで行かせてくれて、頑固で学費は出すと言って聞かず。朝から晩まで働き詰めの生活を送る母に甘えてしまったことを、ひどく後悔した。

このとき兄は社会人一年生、私は大学二年生。どちらも上京していた。

地元で火葬を終え、ようやく兄は職場へ、私は大学へと復帰しようとしていた矢先。役所への届け出や財産の整理を一手に引き受けていた兄から、残酷な真実を告げられる。

それは引き払う前の実家アパートのリビングの、木目の浮き上がるのテーブルの上で。兄はそこに母の預金通帳、カード、印鑑、保険証券を出した。

「通帳にはほとんど残高はなかった。カードローンで十万借りてるみたいだから、俺が返済して解約しておく」

「う、うん。ごめん。お願い」

「………で。本題なんだけど。母さん、生命保険に入ってなかった」
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