勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。

それぞれの場所で。

その日から



九条さんと眠る前に話すこともなくなった。




学校帰りに待ち合わせをすることも、



突然迎えに来てくれた九条さんに驚くこともなくなった。





毎日の生活のなかから、



九条さんの姿だけが消えてしまった。




なんども九条さんに連絡をしようとした。




九条さんの大学にも、こっそり行った。




でも九条さんの困り切った顔を想像すると怖くて、



逃げるように帰ってきた。




最後に会った日の九条さんはすごく落ち着いていて、



婚約が破棄されたことを



静かに受け止めているようにも見えた。




もしかしたら婚約破棄が決まって、



九条さんはどこかホッとしていたのかもしれない。




やっぱり九条さんにとって、



私は足かせでしかなかったのかな……




考えれば考えるほど苦しくて悲しくて、



それなのに、このさき他のだれかを



九条さん以上に好きになれるとは、とても思えなくて。




眠れない夜を重ねて、



気持ちの整理がつかないまま



内部進学の試験を終えて、学部が決まった。




時折アメリカにいるお姉ちゃんから連絡があった。




心は空っぽなまま時間だけが過ぎていき、



なにを見ても涙が浮かび、



夜には声を殺して泣いて、



やがて涙も出なくなった。




九条さんと会えなくなって、



世界から色が消えた気がした。




< 202 / 250 >

この作品をシェア

pagetop