歪ーいびつー(どんでん返し系 狂愛ミステリー)

優雨

※※※





「何……、それ? え……っどう、いう事……?」


 怯えた瞳をした朱莉が、私と奏多を交互に見る。


「……優雨が、涼を川へ突き落としたんだよ」


 私を見て不敵に微笑んだ奏多は、皆んなの方へと視線を向けるとそう言い放った。


(……っバレ、た……っ。……っ! ついにバレてしまった……っ! 皆んなに……っ、知られてしまった……!)


 ガタガタと震え始めた身体にそっと両手で触れると、その震えを抑え込むかのようにして自分自身をギュッと抱きしめる。

 チラリと目の前の夢を見てみると、戸惑いの色を帯びていた瞳は徐々に悲しみの色へと変わってゆき……。
 ついに、悲痛に顔を歪めると大声を上げて泣き始めた。


「っ……嘘っ!!!! ……そんなの……っ、……嘘ぉぉぉぉ!!!! ……っ……ゔぅ……ぐっ」


 ふらりとよろめく夢を支えた楓は、苦しげに顔を歪めるとギュッと夢を抱きしめた。


「ね……、ねぇ。……何で奏多が、そんな事知ってるの?」


 未だに怯えた顔のまま、ビクビクとしながらも小さな声でそう尋ねた朱莉。


「…………。だって、見てたからーー」


 フッと鼻で笑った奏多は、そう告げると大きな声を出して笑い始めた。
 その瞳は狂気に満ち溢れ、まるで別人のようだ。


(この人は本当に……あの、奏多なのーー? )


 視界に映る奏多の姿に、思わずたじろぐ。


「……っ!!?」


 そんな奏多を目の前にして、絶句する朱莉と鋭く睨みつける楓。


「だったら……っ! 何ですぐに言わなかったんだよ! 助かったかもしれないだろ!?」


 夢を抱きしめたまま、悔しそうな顔をして声を荒げる楓。
 そんな楓を見た奏多は、恍惚とした表情をさせるとニヤリと笑った。


「馬鹿だなぁ……楓。ーー助かったらダメだろ?」



ーーー!!?



 奏多の発した言葉に、私だけではなくその場にいた全員が驚きに身を固めた。


(こいつ……っ、狂ってるーー)


 確かに、私は涼を殺してしまった。

 ーーだけど、私はずっと苦しかった。

 涼を殺したかった訳ではない。
 ただ、夢を取られたくなくて……。気付いたら突き飛ばしてしまっていた。

 ーーずっとずっと、苦しかった。

 涼の事を思って泣く夢を見る度に、私は罪悪感と恐怖心に押し潰されそうになった。
 夢から涼を奪ってしまった私は、一生償えない罪を背負ってしまったのだとーー


 それからの私は、涼の代わりに夢を守ると心に決めた。
 どんな時でも、涼は夢のことを1番に考え、夢を守ろうとしていたからーー

 こんな事をしたって償えるわけではないし、綺麗事だって事もわかっている。
 でも、涼を失った夢は見ていられない程にボロボロになっていった。

 私のせいでーー
 夢の人生まで、奪いたくはなかった。


 夢には、幸せになってほしいからーー


(だから……。奏多だけは……絶対に、夢に近付かせたらいけない……っ!)


「ほら……夢、こっちにおいで。まったく……本当に悪い子だね、夢は。何度言っても、わからない。ーーお前は、俺のものなんだよ!!」


 不気味に笑い続ける奏多は、狂ったように叫びながら夢へと近付いてゆく。
 そんな奏多から身を(てい)して夢を庇うと、そのまま机に向かって身体を打ちつけた楓。
 その拍子に、机の上にあった裁断バサミが床へと落ちた。


「ーー嫌っ!! ……来ないでぇぇぇー!!」


 夢の泣き叫ぶ声。朱莉の悲鳴。奏多を押さえつける楓の姿ーー
 そのどれもが、まるでスローモーションのように見える。


 私はゆっくりと床に向かって身を屈めると、そこに落ちたハサミを拾いあげーー

 奏多の背中に向かって突進した。


「ーー……は?」


 ゆっくりと背後を振り返った奏多は、私を捉えるとその瞳を下へと向けた。
 その視線の先にあるのはーー

 カタカタと震えながらも、真っ赤に染まったハサミを握りしめる、私の手ーー




「……っ、いやぁぁぁああーー!!!!」


 一瞬静まり返った教室は、朱莉の悲鳴で再び時間が動き始める。


「ーーあんただけは……っ、絶対に許さない!!」


 私は目の前の奏多を鋭く睨み付けると、手にしたハサミをギュッと握りしめた。





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