メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
忘年会で玲央に言われたこと───欲しいものには手を伸ばす───、それから津村が言っていたこと───彼女の幸せが自分の幸せ───について年末年始実家でずっと考えていたが、どちらを選ぶべきか答えは出なかった。

年明けに杏花に偶然会えた時、想いが溢れてしまい、気持ちを伝えようかと思ったが思い止まった。

彼女は俺の夢の為に祈ると言ってくれた。あいつのことだから本当に祈ってくれるのだろう。それで十分だと思った。杏花が祈ってくれるのなら、本当に夢が叶う気がする。もし俺が神だったら純粋でキラキラと眩しい彼女の願いをついつい優先して叶えてしまいそうだ。彼女は俺なんかにはもったいない素晴らしい女性だ。誰かしっかりした男性と幸せになってほしい。


俺はどうして初詣の日もその後もこのバレンタインの日も、杏花が初詣でなぜ自分のことを祈らずに俺のことを祈ろうとしていたのかを考えなかったのだろう。俺だって自分のことではなく彼女のことを祈ろうとしていた。好きだからだ。つまり、彼女も俺に対して俺が彼女を想うのと同じ気持ちを持っていてくれたのに。

この頃の俺達はあまりに不器用で、臆病で、手を伸ばせばすぐ掴めるところにある相手の気持ちに気づくことができなかったのだ。
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