メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
答えは簡単。私は店長に恋をしていなくて、暖人に恋をしているから。

初詣の日、爽ちゃんに言われたことをずっと考えていた───暖人に自分の気持ちを伝える───自分の気持ちを心の奥に閉じ込めて逃げていてもいつまでも前に進めない。

かと言って私の気持ちをぶつけたところで、暖人は───万が一私に気持ちがあるにしても───時計に人生をかけると決めているから、私の恋心は跳ね返ってくるに違いない。壁にボールをぶつけるようなものだ。それがわかっているのに自分が前に進みたいからと気持ちを伝えるのは彼に迷惑をかけるだけではないだろうか。

以前店長が私に告白してくれた時、驚いたけれど、くすぐったいような嬉しい気持ちがあった。私がその相手でもそんな風に感じてもらえるのだろうか。

思考は時計の針みたいにぐるぐる回る。時計の針はぐるぐる回って時間を刻んで常に前に進んでいるけれど、思考がぐるぐる回ってもずっとその場から動けないままだ。まるで自分で自分を呪縛しているみたいに。

バレンタインの日、家に帰るまで涙をこらえた。自室に入った途端溢れだした後悔の涙は私の顔だけではなく心の中にも雨を降らせ、その雨は心の中の余計なものを洗い流した。後に残ったのはシンプルな想いだ。『お誕生日おめでとう。』あの日言った言葉を来年も再来年も暖人に贈りたい。

自然の中にいると東京にいるより強く春の気配を感じる。何かが始まる希望の足音が近づいてくる気がする。植物が芽吹くように私の心の中でも何かが芽吹くのを感じた。臆病過ぎる私もそろそろ一歩を踏み出す時なのだと思った。
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