メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
彼女は少し表情を固くして続けた。

「明るくて楽しい人だった。映画とか水族館とか遊園地とかカフェとか居酒屋とかにお出かけしたり、彼の家にお邪魔したりして・・・でも私が恋に目覚めることはなかった。恋愛にも熱くなれなかったの。一緒にいるのは楽しかったけど、気持ちは一定の温度のまま盛り上がることがなかった。失礼な話だけど、趣味のうちのひとつ、みたいな感覚だったのかもしれない。それが彼にも伝わってさよならして。申し訳ないことしたなって。だから私には恋愛はできないのかな、でもそれでいいって思ってた。」

「俺も同じだよ。恋愛に熱くなれなかった。どうしても時計ばかりに心がいっちゃってたんだ。」

「そっか。」

「・・・話してないで準備しないとな。まったく、あいつらが邪魔しに来たからだ。作品並べるぞ。」

心なしか表情が和らいだ彼女にそう言って、俺は段ボールの中に入っている自分の分身とも言える時計に手を伸ばした。

この時は気づかなかったけれど今思えば、彼女と俺の言葉の語尾が『熱くなれなかっ()』『それでいいって思って()』『時計ばかりに心がいっちゃって()』という過去形になっていたのは過去を回想していたからだけではなく、前はそうだったけれど今は違う、という意識が心の奥にあったからだった。

思っていたよりずっと早くからお互いへの想いは心に根付いていて、無意識のうちにこの恋が今までとは違う───どんどん熱くなる───ものであることを予感していたのだろうか。

彼女への気持ちが恋であることに俺が気づくのは約半日後のことだ。
< 66 / 290 >

この作品をシェア

pagetop