バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
「よし、じゃあ、新婚夫婦と我々の転職と、生まれてくるお子さんの未来のために祝杯といきましょうか」と、課長が手をたたく。
「何か飲み物買ってきますよ」と、山中先輩が私の手をそっと引く。「七海も来てよ」
駅前広場の反対側にあるコンビニでドリンクを選びながら私は先輩に尋ねた。
「本当にいいんですか? うまくいくかどうかも分からない会社なのに。もしかして、私のことを心配してくれたからですか」
「べつに七海のことは心配してないわよ」と、先輩が微笑む。「あなたはもう大丈夫でしょ。自分で一歩を踏み出したんだから。お母さんになるんだし」
そうなのかな。
まだまだ全然自信がないんだけどな。
買い物を終えてコンビニを出たところで、先輩が立ち止まる。
「私さ、先に行ってるから」
え?
先輩が指さす方に、ロングカーディガンにパンツスタイルの女性が立っていた。
池内佐和子奥様だった。
「お久しぶりね」
突然の来訪に戸惑いながら私は軽く頭を下げた。
「少し、お話いいかしら」
奥様に対するわだかまりはもちろん残っていた。
でも、徹也さんも実家には一度も帰っていないし、連絡すら取っていない。
断りもなく二人で新しい生活を始めてしまったことについては、いつかは説明しなければならないと思っていた。
そのいつかが今日やってきただけだった。
住宅街の小道に入っていく奥様の後ろを私は黙ってついていった。
大きな楠がそびえる公園がある。
蝉の鳴き声が降りそそぐ木陰のベンチを奥様がすすめてくれた。
あ、そうか。
もう知ってるんだ。
お腹に手を当てながら私が座ると、奥様が腰を曲げて深々と頭を下げた。
「七海さん、どうもありがとう」
え?
何が、ですか?
立ち上がろうとする私の肩に優しく手を置いて、奥様も隣に腰掛けた。
「怒ってるでしょう? あんなひどいことを言ったのですからね」
「いえ、そんなことはありません。ただ、あのときは、悲しかっただけで……」
「ごめんなさいね」と、奥様がもう一度頭を下げた。「今さら言い訳かと思われるかもしれないけど、あなたのことが心配だったのよ」
怒るべきなのかもしれない。
でも、不思議とそういう気にはならなかった。
大女優を相手に怖じ気づいたわけではない。
私は心から感謝していたのだ。
「何か飲み物買ってきますよ」と、山中先輩が私の手をそっと引く。「七海も来てよ」
駅前広場の反対側にあるコンビニでドリンクを選びながら私は先輩に尋ねた。
「本当にいいんですか? うまくいくかどうかも分からない会社なのに。もしかして、私のことを心配してくれたからですか」
「べつに七海のことは心配してないわよ」と、先輩が微笑む。「あなたはもう大丈夫でしょ。自分で一歩を踏み出したんだから。お母さんになるんだし」
そうなのかな。
まだまだ全然自信がないんだけどな。
買い物を終えてコンビニを出たところで、先輩が立ち止まる。
「私さ、先に行ってるから」
え?
先輩が指さす方に、ロングカーディガンにパンツスタイルの女性が立っていた。
池内佐和子奥様だった。
「お久しぶりね」
突然の来訪に戸惑いながら私は軽く頭を下げた。
「少し、お話いいかしら」
奥様に対するわだかまりはもちろん残っていた。
でも、徹也さんも実家には一度も帰っていないし、連絡すら取っていない。
断りもなく二人で新しい生活を始めてしまったことについては、いつかは説明しなければならないと思っていた。
そのいつかが今日やってきただけだった。
住宅街の小道に入っていく奥様の後ろを私は黙ってついていった。
大きな楠がそびえる公園がある。
蝉の鳴き声が降りそそぐ木陰のベンチを奥様がすすめてくれた。
あ、そうか。
もう知ってるんだ。
お腹に手を当てながら私が座ると、奥様が腰を曲げて深々と頭を下げた。
「七海さん、どうもありがとう」
え?
何が、ですか?
立ち上がろうとする私の肩に優しく手を置いて、奥様も隣に腰掛けた。
「怒ってるでしょう? あんなひどいことを言ったのですからね」
「いえ、そんなことはありません。ただ、あのときは、悲しかっただけで……」
「ごめんなさいね」と、奥様がもう一度頭を下げた。「今さら言い訳かと思われるかもしれないけど、あなたのことが心配だったのよ」
怒るべきなのかもしれない。
でも、不思議とそういう気にはならなかった。
大女優を相手に怖じ気づいたわけではない。
私は心から感謝していたのだ。