交錯白黒

ビクリと体を跳ねさせた私に、櫻子は橘くん達に悟られぬよう、一瞬視線を射出する。

やはり、気づかれていたようだ。

知ってるんでしょ、そういう呆れたような、皮肉混じりの声がまざまざと思い起こされる。

「貴方達の同級生にもいるみたいじゃない?この人の娘が」

やはり、そうだったのか。

私はクラスの内情を知らない櫻子の言葉に唇を噛む。

今の橘くんの状態から考えて、殆どあり得ないとは思うが、その娘、つまり麗華にとばっちりがいくかもしれない、なんて可能性は考えなかったのだろうか。

橘くんは理性的な方ではあるが、特定の事柄に触れられると、それはいとも簡単に崩壊し、烈火の如く怒り狂って突っ走ってしまう。

それを私は何度か見てきた。

そうなれば私には彼を止められない。

「如月が捨て子だって知ってたのはそういう訳だったのか……」

その心配はどうやら不必要だったようで、橘くんは怒るというか、非常に驚いている様子だ。  

「もう一つ、お願いします。珊瑚との密会の内容について、教えてください」 

「それは主に、天藍の成長過程とかを見せたり、琥珀くんや瑠璃くんの話、愛子の話、クローン作成がバレたときの話。その日によって違ったけど、話の内容は君達のことが殆どだったわ」

私達のこと。

その言葉を引き金に、遥斗との会話が想起される。

――「秘密、愛してる、バレてない、謝る、会いたい」

浮気なんて生ちょろいものではない、海のように暗く、幾重もの想いが交わり、衝突してできた複雑な言葉だったのだ。

「僕からも、いいですか」

「どうぞ」

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