交錯白黒

「このままでは小亜束千稲の秘密に俺らがたどり着いてしまうと予感したお前は、頭を冷やすと言って席を外したタイミングでxとして電話をし、俺たちを家から追い出した。高田は俺らに一度相談しているから、今度も俺らにヘルプを求めると読んだんだろ?そして、クローンのことについてある程度事情を知っている水樹さんを呼び、二人でクローン作成、それも橘恋藍のクローンについての資料のみを処分しようとした。しかし、ここで水樹さんに電話がかかってくる。高田だ。でもわからないことがある。鹿威しの音の大きさから、水樹さんは外、お前は家の中で電話していた。なのに、何で水樹さんはxのふりができたんだ?」 

『あの』言葉が無ければ、きっと俺は水樹さんがxである可能性が濃いと読んでいただろう。

「それは、水樹さんが麗華の父を殺したのが事実だからよ。どうせ言ったんでしょ?あの人。なんとなく予想つくわ。脅したことに心当りは無かったが、自分は罪を犯しているからきっとそのことだろうと思って返事をしたんじゃない?」

だからあの人、「余計なことを話されると困るだろ?僕が犯人って特定されるから」なんて妙なことを言ったんだ。

俺はそこで水樹さんがxでないことを確信したが、その真意は読み取れていなかった。

「xは盗聴器とかの類を仕掛けていなかったのにも関わらず高田が親父のことをバラしたことを知っていた。あまり考えたく無かった可能性だったが、容疑者は瑠璃、高田、お前、そして俺。俺はそこから高田の親父に関係する何かを抱えてそうな人物を考えてたが、水樹さんが浮上してきたことでかなり混乱させられた」

如月はしてやったり、と言わんばかりのしたり顔でニヤリと笑った。

さっきから如月は笑ってばかりだ。

全て味の違う笑顔一つ一つにドキドキさせられている俺は単純なのか、如月に依存してしまったのか。

「……テーナって鉱石の話、全部嘘だろ。そんな宝石、存在しねぇよな」

「あら、知ってたのね」

小馬鹿にするようにそう言った彼女の表情は明るい。

潔すぎて何か隠し玉でも持っているのか疑いたくなるくらいだ。

「知っちゃいねぇよ。知らないものを存在しないって断定することはクソ大変なんだぞ。そんな面倒臭ぇことするか。どう考えても『チーナ』って書いてたけど、字が汚すぎて『テーナ』って読んだだけだろ」

「勘違いしたまま死に物狂いでテーナって宝石探してくれたら面白かったのに」

「おい」

今までの妖しい笑みではなく、ふふっと子供のようにあどけない笑顔を零したので些か安心した。

「じゃ、パソコンのパスワード、わかっちゃったわね。千稲ちゃんの誕生日は3月20日」

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