密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

『Excuse me. Here’s your coffee』

 その英語には独特の訛りがあり、なにげなく顔を上げて女性の顔を見る。

 セミロングの黒髪に、アーモンド形の瞳の色も黒。そして、おそらく成人女性なのだろうが幼く見えるかわいらしい顔立ち。直感で、日本人だと思った。

『ありがとう』

 試しに日本語でそう言ってみると、彼女はふわりと微笑んで『冷めないうちにどうぞ』と言った。

 ほんの少し、母国語で会話をしたというだけなのに、不思議と癒やされる思いだった。

 俺はやはり日本人なのだな、とあたり前のことを思いつつ、言われたとおりコーヒーに口をつける。

 瞬間、ふわりと鼻腔を通り抜けたのは、香ばしくもどこか優しい香り。程よい苦みとコク、そしてわずかな酸味が、バランスよく舌に広がる。

 先ほどまで不快だった濡れた衣服の香りすら、コーヒーのそれと溶け合えば情緒ある雨の香りに感じられるから不思議だった。

 
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