麗しの彼は、妻に恋をする
いざという時は土地と家を手放して介護施設にはいるから心配ないよと、祖母はいつも笑っているが、祖父が残してくれた大切な土地と家を手放させるわけにはいかない。

祖母は想い出が詰まったこの家が好きなのだから。

自分だけならいい。柚希はずっとぞう思っていた。

たとえ孤独にこの世を去ることになったとしても、好きでその道を選んだのだから本望である。

でも祖母は違う。

なんとしても幸せな人生を全うしてほしいし、お金の心配なんてさせたくない。

――お祖母ちゃんが元気なうちは、定職につくべきだったんだ。

柚希ははじめて、いまの自分の生き方を変えようと思った。

好きな事はいつからだって出来る。ましてや自分のように趣味の延長のような陶芸なら尚更だ。

まだ二十七歳。今からだって遅くはないはずだ。平日働いて、週末だけ益子に帰ればいい。

「よーし、明日から就職活動するぞ」
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