麗しの彼は、妻に恋をする
「失礼します」

会議室を出た途端、柚希は確信した。

――不採用、間違いなし。

人生を立て直す。気合だけは十分のはずだった。
就職情報雑誌を片手に片っ端から連絡をして、リクルートスーツに身を包み面接を受けること十社。

結果は全滅。

予想はしていたとはいえ、さすがに心が萎れてくる。

祖母が入院したあの日から、今日で十日。
個展で得た利益は、就職活動のためのスーツと靴とバッグ、そして祖母のための新しいパジャマと下着を買って、既に残り少ない。

――やっぱり甘かったのかなぁ。

ベンチに腰をおろし、ぼんやりとあたりを見渡した。

ベビーカーを押して歩く若いママ。
腕時計をチラリと見て颯爽と歩くキャリアウーマン。
道行く人々は、みなとても幸せそうに見える。

ここはセレブの街ベリーヒルズなのだから、それも当然だろう。少なくとも、柚希のようにお金で苦労していないことは間違いない。

今日は思い切って条件のいいゲーム会社に来たのだが、その会社はベリーヒルズの一角にある高層でおしゃれなオフィスビルにあった。

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