北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「そういえば、文芸部門のほうで、新しく小中学生向けの海外文学シリーズの企画もあると聞いてます。どうですか」
「いいですね。ぜひ」
「進んだら、真っ先にお声がけさせていただきますよ」
「よろしくお願いします」
 思いがけない誘いに口の端をほころばせていると、目の前に湯気を立てる新しい湯呑が置かれた。
「お久しぶりです~」
 以前何度か顔を合わせたことのある女性編集者が、茶を取り換えると当然のように年上の同僚のとなりに腰かけた。
 会話に加えざるを得なくなって、老編集者が指先を彼女に向けた。
「そうそう、中森がこっちに異動してくることになりまして」
「そうなんですよ~小野里さんとお仕事できるの、すっごく楽しみです!」
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