北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
-エピローグ-
 真夏の日差しをくぐり、砂浜に乱立するパラソルのあいだを抜けて、簡易テントのひとつに入る。
 スマートフォンをのぞきこんでいた凛乃が顔を上げて、にこやかに両腕を拡げた。
「おかえり~」
 彪吾は嬌声をあげて浮き輪を放り出し、びしょびしょの身体のまま母親の胸に飛び込んだ。
 おぼつかない言葉で、夢中になって感想を語る息子を見て、累はほほえんだ。
 息子にとって産まれて初めての海水浴は、どうやら成功裏に終わりそうだ。カーナビ頼りで隣県まで足を延ばした甲斐があった。
「そうなの、おもしろかったんだね。はい、お茶飲もうね」
「ん」
 両手で小さなお茶のパックを握りしめて、彪吾はこくこくとうなずく。
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