傷つき屋

拳を握ると、伸びた爪が食い込む。

伝えたいことを言葉にするという行為が上手くいかず、ずっと逃げてきた。

でも今日はだめだ。逃げてはいけない。

「マコト……深入りしすぎるなよ。お前が代わりになるのは、違うだろうが」

「……ほっといてくれ」

マコトが苛立った様子で俺の横を通り過ぎる。
自転車の停めてある入り口へと、歩き出す。


「じゃあお前の傷は誰が負うんだよ!」


思わず、叫んでいた。マコトが振り返る。
俺の頬を涙が伝っていた。

アキオ、と口が動いたけれど、車の量が多くて何も聞こえない。



言葉にならない涙をおさえようと全身に力を込め、唇が震えた。

一瞬、マコトの目に光が灯った気がした。
そしておもむろに、俺の肩へと手を伸ばす。

「触んなって!」

触れてこようとした手を思い切り払いのけた。

マコトは驚いて目を大きく見開く。

俺は苦しくて、もどかしくて、目の前のこいつを殴りつけたくて、それを全部抱えた胸を上下させて泣く。



「俺の傷だ」

歯を食いしばり、下から睨み付ける。
涙が口の中に入って、しょっぱくてむずがゆい。

「ちゃんと自分で傷つかせろよ」

俺は歩き出した。すれ違う瞬間マコトの肩にどんっと勢いよくぶつかった。

それでも振り返らず、涙もぬぐわなかった。


自転車にまたがって、来た道を戻る。

ハンドルを持つ手ががたがたを震えるのを、必死にぎゅっと握りしめて、全身で風を受けた。




何が正しいのか、どこで間違ったのか、何も考えられなかった。

マコトに何かをしてやりたいとか、そういうことじゃない。
俺はマコトにあれをやめさせたかっただけだ。


いや、やめさせることで、俺たちは友達なんだってことを確かめたい。
もしかしたらそんなただのエゴだったのかもしれない。

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