蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜





・・・・・・
・・・






ツンとした消毒液の匂いに意識が浮上する



柔らかな声が耳に届き
その声に重い目蓋を開いた


「・・・・・・え」


視界に飛び込んできたのは
見知らぬ女性と白い天井だった


「良かった、気がついたね
頭打ってるから、急に起きないで」


「はい」


「此処は病院だから心配ないわよ
今の気分はどうかしら?」


「気分は・・・悪くありません」


「そう、じゃあ名前教えてくれる?」


「はい。山之内蓮と申します」


「年は?」


「十七歳です」


「じゃあ蓮ちゃん、まだ質問続くけど
平気そう?」


「はい、大丈夫です」


「さすが東美ね、ちゃんとしてる」


フフフと笑った女性は看護師長の岡部さん
同い年で理解不能の日本語を話す
ワガママ姪っ子が居ると教えてくれた


「此処へ来た時は蓮ちゃん既に意識がなかったの
何が起こったのか覚えてる?」


「・・・・・・はい」


覚えている限りの最後の景色を伝えると岡部さんは


「病気じゃなくて頭を打ったことが原因みたいね」


脈を取りながら変わらず笑顔を向けてくれる


目が覚めてから不安しか感じなかったから
その笑顔に身体の力が抜けてくるのがわかった


コンコン


ノック音と共にバタバタと足音が近付いた


「目が覚めたか」


岡部さんの隣に立って見下ろすのは
白衣を着た男性

おじいちゃんよりは少し若そう
寝たまま不躾な視線を向けていると
フフフと笑った岡部さんは


「蓮ちゃん、此処の橘院長よ」


答えをくれた


「目が覚めるのが遅かったから
アイツも心配で騒いでたが・・・
レントゲンも血液検査の結果も問題無し
もう帰っていいぞ」


ぶっきらぼうな物言いだけど
眼差しはとても優しくて安心する


「ありがとうございました」


せめて上半身だけでも起きてお礼をと
モゾモゾと起き上がって頭を下げた










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