無名ファイル1

Part2.乙女の恋心


「ケホッ…」

未だ残暑の熱が残る9月の初旬、

冷房の風で銀髪の鬱陶しい髪が揺れる。

『月乃ちゃんの声、治らないね。』

『本番…大丈夫?』

私は言葉の重圧に堪えかねていた。

彼とはあの日の騒動から気まずいし。

『月乃ちゃん…このままだとヒロイン、
交代になってしまうかも…例えば、
エミリアが候補に挙がってるんだ。』

あぁ、ドレス似合いそう…美人だし。

私はあの男に接近したあの日から、

昔の無気力な自分に戻りかけていた。

どうでもいい…自暴自棄だったのかも。

「私はヒロインは断固拒否デース。
ヒーローなら喜んで引き受けるデス!」

こんなゆるふわな子がヒーロー?

ドヤ顔をするエミリア…うーん姫。

「大丈夫、本番までに全部解決する。」

机に突っ伏して寝る彼が視界に入った。

「夏夜、起きて…劇の通しするって」

「…ん。」

寝ぼけ眼を擦る彼は少し機嫌が悪そう。

しかし演技には微塵も影響させない。

「スゥーッ…。」

スイッチが入り、澄み切った少年の瞳。

彼は触れられるほど近いはずなのに、

ひどく距離を感じた…。

「じゃあ、通し行くわよ!よーい…」
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