翳踏み【完】

「ああいう親持つと性格歪みそ~」

「親から愛されてなさそうだよね。子どもより仕事みたいな」


今私が膝に置いているこのお弁当は、毎朝母が作ってくれているものだ。どんなに忙しくても私と父のために作ってくれる。

母は私を、言葉には表せないくらいに愛してくれているし、父も同様だ。だから、今私の耳に刺さってくる言葉は、少しも正しくない。それなのに、それが世間の評価だ。

私という存在は、父と母の活動を通じた色眼鏡の中でしか評価されない。逆に私個人が引き起こした問題は、全て父と母の評価につながる。それはつまり、私は一個人ではなく、父と母の付属品としか思われていないということなのだろう。

もう何年も同じ暮らしを続けてきていたから、慣れている。でも、慣れと受容は違う。

だから彼が、私を私として見つめた時、呆気なく恋に落ちてしまったのかもしれない。


「お、真帆じゃん。何してんの」

「え、夏希? 何でここにいんの?」

「ん? 俺は好きな子に会いに」

「え? あたし?」

「ん?」

「ちょ、そこは『そうだよ』でしょ~」

「いやいや、お前じゃねえし」


声がする。ただ一音聞いただけで、それが誰の声なのかわかる私は可笑しくなっている。きっと夏のせいだと思い込んで、残っていた卵焼きを頬張った。


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