翳踏み【完】
先輩だって、私とこんなことで騒がれるなんて嫌に決まっている。だから秘密にしようと言っていたのだろう。それなのに、あっけなく広がってしまった。あの時、どんなにつらくても、あの女の人たちが囁いていた言葉を肯定するべきだった。

私はただ遊ばれているだけで、ゲームの一環で使われているだけなんだって、そう言ってしまえば、このうわさがここまで広まることもなかっただろう。

震える指先で、携帯に触れた。先輩はまだ、私の言葉を聞いてくれるだろうか。ゆっくりと、冷えた指先で先輩とのメッセージを開いた。ひとつ前のやり取りは、先輩からの“暇”という言葉から始まっている。

まるで恋人同士みたいな言葉の掛け合いだと思った。遊びなのに、勝手に浮かれて、勝手にすきになった。なんておろかなのだろう。


きっと、もう終わってしまう。

ここまで校内の人にバレて、すきでもない女の子と噂になるなんて、きっと先輩も嫌だろう。私がすきになるまでもなく、ゲームオーバーだ。だから、きっともう、会ってくれない。

ささやかな時間だった。夢のような時間だった。むせ返るほどに甘くて、苦しい時間だった。

思い返せば思い返すほどに、諦めるのが嫌になる。往生際が悪くて、自分で自分が気持ち悪い。

あの時、罰ゲームだと聞いていなかったら、私はもっと素直に先輩の言葉に溺れていただろう。それでなくとも、取り返しのつかないくらいに溺れて、息の継ぎ方すらわからない。

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