翳踏み【完】
今まで浴びたこともないくらいの視線がぶつかってきて顔を俯かせたくなるのを必死で耐えた。きっと、後にも先にも、こんなふうに人前に出ようと思うことはないだろう。それくらい、先輩が好きになってしまった。


一人一人をじっと見つめて、先輩を待つ。そのうち登校する生徒の数もまばらになって、チャイムが鳴った。先輩が登校する時間はいつもまばらだから、一限目までに来ないことくらい予測していた。

陽炎が視界を揺れる。頭がぼうっとして、こめかみに何かが流れている気がした。一生懸命に可愛くしたつもりだけれど、すでに汗でぐちゃぐちゃになってしまっている。日傘さえも持たずに立ち尽くしている私の頭はとっくに焼けるくらいに熱い。それでもきっと、今日を逃してはいけないと思った。

伝えたって迷惑だと言われるかもしれない。だけど、きっと、後悔するよりいいんだと思う。


意識が朦朧としている気がする。それでも何とか、じっと立ちつくして、目の前から何かが走ってくるのを見た。それは、先輩が好きだと言っていたものだった。

あっと声をあげる暇もなく、私の目の前を通り過ぎる。その勢いにスカートが揺れた。バイクに跨った後ろ姿を確認した時、すぐに状況が理解できなかった。

私の事なんて見えなかったみたいに通り過ぎて、校門をくぐった。先輩の後部座席には、私と同じ制服を着た女の子が乗っている。

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