翳踏み【完】
「椎名?」
「う、わ……、楽間、くん?」
ぼろぼろとこぼれる涙をそのままに、ベッドの上で丸くなっていたら、後ろから声がかかった。その声に驚いて後ろを見ると、そこには同じクラスの彼がいた。更科先輩と得に仲のいい彼が、どうして保健室にきているのかわからない。その上無防備に泣いているところを見られて、瞬時に顔をそむけた。
「どうした? 頭痛ぇの?」
「う、ううん……。だいじょう、ぶ……。楽間くん、どうして保健室に?」
滅多に会話するような人じゃないから、急に話しかけられると言葉に詰まってしまう。それでも何とか疑問を呟いて、ぐずぐずする鼻を啜った。
「あー、お前の様子見に」
「わたし?」
全く関わりのなかった人にそんなことを言われるとは思ってもいない。私の思考が漏れているみたいに困った顔をした楽間くんは、一度頭を掻いてから「まあ、その反応になるわな」と呟いた。
「お前さ、3限の途中に校門で倒れたんだよ。でっけえ声で夏希さん呼んで、そのまま。覚えてねえの?」
「あ、ごめん……。おぼえて、ます」
あれだけ大きな声で叫べば窓を全開にしている教室に響いていて当たり前だ。突然恥ずかしくなって、顔を俯かせる。たくさんの生徒に私のあれが見られていたのだと思うと、さらに遣る瀬無くなった。
「夏希さんにもう会わねえって言われたんだろ」
断定的に言われて、返す言葉もなくなる。それが事実みたいに突き刺さって血が出そうだ。肯定したくなくてじっとフローリングの模様を見つめた。楽間くんはきっと、先輩が罰ゲームで私に近づいたことを知っている。