翳踏み【完】
少し怒気を孕んだような声だった。わざと私の耳に誑し込むように囁いて、じっと、私の回答を急かしている。その態度にまた眩暈がして、「ただ、そのままの意味です」と途切れ途切れに呟いた。


「菜月は俺が、はいじゃあゲーム終了ねって言って、ここで何事もなく帰してくれることを望んでるわけ」


手首を掴む指先が目を逸らさせない。じっと真剣に私を睨んで、「そんなこと、あるわけねえだろ」と囁いた。


「せんぱ……」

「いいよ、じゃあ俺が飽きるまで、俺の彼女やれよ。嫌だっつっても、もう撤回させねえ」


楽間何かにフラフラすんなよ、と口説き落とした彼が私の耳を食んだ。それだけで意味も分からずに体が震えあがる。何も考えられない。私が思っていたのとは全く違うことが起きている現実にただぶら下がるだけで精一杯だった。

世界が180度変わることを、私はまだ知らない。

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