彼が冷たかった理由。
黒板消しが終わって、渉の席を見ると、いつの間にか彼は居なくなっていた。
まぁ大体、誰かにひきづられて行ったのだろう。

そのうち戻ってくる。

「優愛、一緒に昼飯食おーぜ」

どーせ独りだろ、なんて琉君が話しかけてくれる。
うん、と頷くと、彼は渉の席に座った。

「最近よく笑うよね」

「誰が?」

「優愛が。めちゃくちゃ可愛い顔で」

「なにそれ」

ふふふと笑ってしまう。
私が可愛い顔で笑う?バカを言うな、可愛いところなんて微塵もない。

「まぁよかったよ、渉と上手くいってるようで」

どこか残念そうに琉君が言う。
そして、メロンパンをかじった。

「意外だったけどなぁ、優愛がああいう不真面目そうなやつと付き合ってるの」

「そう?」

「なんていうか、優愛は堅実にお付き合いしますーって感じするし」

「不真面目でも、その他でカバーできてればいいんだよ」

「優愛っぽい答えだな」


メロンパンを食べ終わると、彼はさっさと席に戻って、5時間目の小テストに備えた。

...みんなテストの準備してないけど、大丈夫なのかな。

まぁいいか、と教科書を開いた。


「優愛」

「はい?」

後ろから来た渉に返事をすると、彼はドカンと椅子に座った。

「どうしたの」

「......僕じゃダメだった?」

「なにが?」

彼は私に話しかけているのだろうけど顔を伏せていて、たまに声が籠る。

だから、主語があまり聞こえない。

「頼ってくれなかった」

「すぐ寝ちゃってたでしょ」

渉のばーか、なんて二の腕にデコピンの要領で指を当てる。

パチッ、といい音がした。

「起こしてよ」

「渉の寝顔好きなんだもん」

テストの勉強しよう、と教科書を見せても、彼はなにも、反応しない。

んん、と唸るだけだった。

「優愛、すき」

「私も好きだよ、渉のこと」

「じゃあ愛してる」

そんな小さな小さな競り合いが生まれて、二人して笑ってしまう。

ただ、その瞬間が楽しかった。
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