彼が冷たかった理由。
「渉くーんっ、お昼食べよう!」


そんな声が廊下から聞こえる。
うーん、とだるそうに返事をして、渉は行ってしまった。

私もお昼誘おうとしてたのに、なんて。

まぁいい、彼の交友関係に口を挟めるほど私は偉い立場ではない。

...ちょっと嫉妬するかも、なんてね。

「うわ、出たあの女...」
「優愛の彼氏って知ってるのかなぁ」
「でもついて行くのもおかしいよねぇ」

女子が私のことをちらちら見ながらこそこそ話す。
いいもん、別にそんなこと。

き、気になんてするわけないじゃん?

私だって琉君とお昼食べたりするし。
おあいこだもん。

...重い彼女じゃないんだから。

嫉妬なんてダメだ、ダメ。

嫉妬なんてしてどうする。
自分が辛いだけだろう。

忘れろ、忘れろ。

そうだ、図書室で本を読もう。

お昼は今日忘れちゃったし...購買も売れ切れてるだろうから。



「失礼します...」

図書室に入ると静かで、真面目そうな生徒が二、三人。

こんなに沢山の本があるのになぁ、と思いながら本を探す。

私の好きな日本文学を手に取った。


「んんっ、どの本読もうかな...」

そう声に出す男子生徒を横目に本を借りに行く。
せっかくだから放課後も読みたい。

「閉館五分前でーす。
借りる人は本をカウンターまで持ってきてくださーい」

図書局員の方がそういう。
さっさと図書室に本を読みに来ていた人が借りて行ったが、彼はまだ悩んでいるようだった。

「あのー、閉館なんだけどー」

「待っ、待ってください!」

男子生徒がどうしようどうしよう、とパニックになっている。

仕方ないか、とおすすめの本を取って彼に渡した。

「これ、面白いから読んでみてください」

「あっ、ありがとう...!」

メガネの奥の目をキラキラと輝かせカウンターに走っていく。

...走りすぎて机の角に引っかかり転んだのは見なかったことにした。
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