大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
富子の話を聞いてから、優しさと愛は違うのだと考えて悶々としているのだ。


「ほんと、ご令嬢とは思えないわね」


松尾さんが最初とは一転、にっこり笑ってくれたのがうれしかった。



津田紡績での仕事は週に三日だけ。

ひと月も経つと順調に回り始めて、最初は検算だけだったのが少しずつ別の仕事も増えてきた。


「津田さん、この経費を計算して、予算と照らし合わせて間違っていないか調べてくれる?」

「わかりました」


高山さんから預かったのは、三谷商店に関する書類だった。

どうやら私が三谷家の娘だということは知られていないようで、時折三谷商店についての話も上がる。


今日も高山さんと、彼の上司にあたる三十代半ばの橋田(はしだ)さんが話し始めた。


「出向したヤツに聞いたけど、三谷の丸の内ビルヂング、とうとう建築費を返却させたらしいね」

「敏正さんもやりますねー」


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