大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
高山さんたちが話している通り、父は商才など微塵もなく、ただ周囲に踊らされ、たまたま景気がよかったからうまくいっていただけ。

そんな〝滅茶苦茶な会社〟なのだから、内情はひどいはずだ。


「津田さん。敏正さんって家ではどんな人?」


高山さんに話を振られてなんと答えようか迷う。


「お優しい、ですよ」

「へぇー。美人の前ではそうなるよねぇ。どうやって知り合ったの? やっぱり親が縁談を持ってきた?」


高山さんが食らいついてくるので困った。
まさか吉原の大門の前で拾われたとは言えない。


「それを聞くのは野暮でしょ? そういうところがもてないの。まったく男は、品性の欠片もない。津田さんが幸せそうなんだからそれでいいじゃない」


松尾さんがたしなめてくれて助かった。

ビシッと叱られた高山さんは「すみません」としょげている。


私が幸せそうなら……。

そうね。
富子の旦那さまの話を聞いてびくびくしていたけれど、今が幸せなのだから楽しまなくては。


松尾さんの言葉に、視界がぱぁっと開けたようだった。
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