大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
この門の先は、かの有名な吉原遊郭。男が女を買う場所だ。

遊女の逃亡を防ぐための高い塀と、〝お歯黒どぶ〟と呼ばれる堀に囲まれたそこは、この門以外に出入りできないと聞いている。


しばらく門の先を見つめていると、ひと晩楽しんだ男たちがぞろぞろと姿を現し始め、昇り始めた朝日を浴びながら吉原を出ていく。


「さぁ、そろそろ行こうか」


私を促す男は、妓楼に女を売る女衒(ぜげん)。
つまり私は、これからここで遊女として働くのだ。


男が私の背中を押そうとするので、その手を払った。


「気安く触れないで。触れるなら相応の金を払いなさい!」


強い口調で言うと、女衒は眉尻を上げる。


「借金まみれの没落華族風情が、でかい口を叩くな! 相応の金だ? 男を喜ばせる手練手管を覚えてから言いやがれ!」


女衒に強く背中を押された私はよろけたが踏ん張った。

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