キミだけのヒーロー
フランダースの犬
「おじゃましまーす」


夏休みに入ってすぐ、サユリが初めてオレの家にやってきた。

玄関に入るやいなや、母親が出迎えた。


「あの……これ。うちの母からです。みなさんで召し上がってください」


そんな気ぃなんか使わなくていいのに、サユリは丁寧にも手土産を持ってきていた。


「あら。ありがとー。でも、今度からは手ぶらで来てねー」


いかにも余所行きの甲高い声でそう言うオカン。

口では遠慮しながらも、サユリの手土産をがっつり掴んでいるし。

つか、今日、化粧濃っ!


「どうぞどうぞ。あがって? いつもごめんなさいねー。ケンジ、サユリちゃんに迷惑ばっかりかけてるんちゃう? ほんとこの子は誰に似たのか、アホでしょう?」


なんて言いながら、オレの体をバシバシと叩く。

あー……マジ、うぜ―――。



「ソックリ……」


サユリは肩を震わせてクスクス笑ってる。

最悪や……。

こんなオカンに似てるなんて、ありえへん。

オレはこめかみがピクピクとひきつるのを感じていた。



「あ。こんにちは」


サユリは腰をかがめて視線を下げてそう言った。

オカンの後ろからひょいと妹が顔を覗かせたからだ。


「あ。こいつ、妹のマキ。小3やねん。ホラッ挨拶は?」


「こんにちは」


マキは照れくさそうに挨拶すると、またすぐにオカンの後ろに隠れた。

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