キミだけのヒーロー
どうやって階段を降りてきたのかもわからないが、とにかくその場にいるのが嫌だった。

オレは意味もなく店の外に出ようとした。

背後から「ありがとうございましたー」なんて、アルバイト店員のマニュアル通りの明るい声が聞こえた。


自動扉が開いた瞬間、むあっと暑い湿気を含んだ空気に包まれる。

排気ガスと砂埃の匂いにむせ返りそうになる。

なのに、暑さのせいか呼吸すら苦しい。

オレは今ちゃんと息をしているんだろうか?

そんなことすらわからない。


「ケンジ!」


その声にハッとして顔を上げると目の前にサユリが立っていた。


「ごめんね。遅くなって」


いつものように、愛らしい瞳でオレの顔を覗き込む。


「あれ? 入らへんの?」


オレが店から出てきたことに、不思議そうにしている。


「ああ……」


そう呟くと、そのまま歩き出した。

サユリも慌てて後をついてくる。
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