クール王子はワケアリいとこ

　……いや、犬って言うか狼っぽい気もするような。
　あ、ウルフドッグかもしれない。

　羊毛フェルトを犬にしようと決めたとき、ネットで色々調べてみた時にそういう犬種があるって知った。


　でもどうして突然そんな犬がここに？
　そして皓也はどこに？


　皓也を探そうともう一度周りを見てみた。
　でもやっぱりいない。

「あ」
　もしかして、とそこで一つ思いついた。

　皓也はヴァンパイアだったんだから、何か人間離れした身体能力でどこかに逃げたのかも。

　きっとそうだ。
　と納得したのに、淳先輩が爆弾を落とす。


「なぁ、何で犬に――いや、それ狼か？　皓也、何で狼になっちまってるんだ？」

「…………はい？」

　まさかと思いつつもう一度犬を見る。

　言われてみれば、薄茶だと思った毛並みは皓也の髪によく似た金色にも見える。
　そして何より、さっきはスルーしたけどこの犬は学ランを着ていた。

「……」


　まさか、まさかと繰り返しながらしゃがんで犬と目線を合わせる。
　さっきから大人しくしてるし、いきなり咬(か)みついてくることはないだろう。


「えっと……皓也、なの？」
　聞いてみると、犬はちゃんと言葉を理解しているようで頷(うなず)く仕草をして見せた。

「……」

　見ていた淳先輩が皓也だと言った。
　犬本人（？）もそうだと言った。
　状況的にも合っている。


　この犬が、皓也なの？


　理解した途端、気が遠くなった。
　比喩(ひゆ)では無くて、本当に。

　淳先輩がヴァンパイアハンターだったり、皓也がヴァンパイアだったり、終(しま)いには皓也が犬になっちゃったり。

　もう、色々あり過ぎて限界だった。

　気が遠くなって体が傾(かし)いだと思ったら、わたしは意識を失っていた。