さようなら、愛しい人
サラと出会ったのは、穏やかな春の午後だった。前日に依頼をされて人を殺したばかりだった俺はすることもなく散歩でもしようかと家を出た。

ブラブラと歩いていると、ふわりとどこからか花びらが舞ってきた。見たことのない花だ。俺は花びらが舞ってきた方を見る。すると、ごく薄い紫みの赤をした花がたくさん咲いた木の下に警察官の制服を着た女が立っている。俺の眉がピクリと動いた。

「こんにちは」

警察の女が微笑みながら言い、俺も「こんにちは」と疑われないように返す。女は警察だというのに俺に笑いながら話しかけてきた。

「今年も綺麗に咲きましたね。桜!」

「この花、桜と言うんですね」

それから女は聞いてもいないのに、自分の名前がサラであることや東洋の血が流れていることなんかを話し始める。こんなバカな女、初めて見たよ。

「……変な人」

ポツリと呟いてしまうと、サラは「よく言われます」と笑い出す。その無邪気な笑顔に、俺の胸がギュッと不思議な音を立てる。

春、俺は桜の木の下で出会った正義側の人間に恋をした。

それから、俺とサラはよく桜の木の下で会うようになって、いつの間にか一緒に食事に行ったりする仲になっていた。

夏、サラと二人で海に行ったり夏祭りに行って思い出をたくさん作った。夏祭りなんて生まれて初めて見た。生まれて初めて見た花火に心が揺れ、初めて感動という意味を知ったな。
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